秀和レジデンス竣工全盛期は1960年代末~70年代初頭。その頃に建てられた秀和第二南平台レジデンス(写真中央)と、その手前の秀和第一南平台レジデンス
秀和レジデンス竣工全盛期は1960年代末~70年代初頭。その頃に建てられた秀和第二南平台レジデンス(写真中央)と、その手前の秀和第一南平台レジデンス

 同シリーズの生みの親は、秀和株式会社(解散)の創業社長・小林茂さん(故人)。30代で同シリーズを手掛け、不動産で成功を収めた。バブル期の88年には世界の長者番付で3位となった。

 小林さんは管理組合のほかに、日本初の銀行と提携した住宅ローン制度も確立。最もこだわったのはマンションの設計で、コバルトブルーの屋根瓦と白い壁は共通でも、物件ごとに造りを変え、採算度外視で安易な規格にはしなかったという。

 まさにオーダーメイドのように一棟ずつ丁寧に建てられたのが同シリーズなのだ。

「刊行後、秀和設計部OBの方から連絡がありました。“秀和愛”あふれる本書をよろこんでくださり、私もうれしかったです」(谷島さん)

 hacoさんは、小林さんの右腕で、デザイン等を担当していた人に取材した時、秀和の特長の一つである、個性的な形をした屋上の塔屋(階段室や機械室などがある塔状の部分)について、「どうしてあの形にしたのですか?」と聞いたことがある。

「『だってかわいいでしょ』と言われたことが、心に残っています。かわいいだけじゃないけれど、かわいいを一番大切にしてもよかった時代が羨ましいです」(hacoさん)

 著者二人に、それぞれおすすめの秀和レジデンスを挙げてもらった。

「住みたい秀和でもある、秀和四谷パークサイドレジデンス(東京都新宿区)。100平米超えの住居も多く、上層階には迎賓館赤坂離宮を一望できる部屋があり、エントランスはホテルのロビーを彷彿とさせます。私は勝手に“秀和の王様”と呼んでいます」(谷島さん)

「秀和参宮橋レジデンス(同渋谷区)は、タイルや照明などの大半が竣工時のまま残されていて、大切にされているのがわかる素敵な秀和。新宿や渋谷に自転車で行ける立地もいい」(hacoさん)

 同シリーズは、棟ごとの違いだけでなく、60~00年代にかけて建設されたことから、年代ごとの違いもある。60年代のバルコニーは1部屋ずつ分かれている独立型が多く見られ、80年代は流行の出窓を取り入れたものがある。このように、見比べてみるとさらに興味が深まりそうだ。

「秀和レジデンスに注目し始めた当初は表面的なかわいらしさが目に付いたのですが、何棟も見るうちに白い壁の模様の違いや、柵の形なども気になりだしました。細かい部分のこだわりを見つけるのが楽しくなっていきました」(同)

 秀和レジデンスの“沼”は奥深く、今も多くの人を魅了し続けている。(ライター・吉川明子)

写真提供:『秀和レジデンス図鑑』(トゥーヴァージンズ)
写真提供:『秀和レジデンス図鑑』(トゥーヴァージンズ)

週刊朝日  2022年4月29日号