東尾修
東尾修

 各球団、明暗が分かれたプロ野球開幕戦。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が分析する。

【写真】西武の隅田知一郎

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 プロ野球が開幕して1週間が経過した。開幕ダッシュに成功した球団、そしてなかなか勝利が遠い球団と明暗が分かれている。その中で私の古巣でもある西武のドラフト1位の隅田知一郎(ちひろ)、ドラフト2位の佐藤隼輔が開幕ローテーションに入り、2人ともにプロ初登板で初勝利を飾った。

西武の隅田知一郎。左のエース候補の期待がかかる
西武の隅田知一郎。左のエース候補の期待がかかる

 特に隅田は素晴らしかった。開幕2戦目となった3月26日のオリックス戦に登板。7回1安打無失点の快投だった。プロ初登板というのに、慌てるそぶりは一切なかった。

 驚いたのが、初回先頭の福田の打席。ピッチャーライナーを捕球した。投げることに必死でボールから目を切る投手が多い中で、投げ終わった後も目を離さずに打球を処理した。何より精神面をコントロールできていなければ、デビュー戦の最初の打者でこんな冷静な対応はできない。体のバランスが良く、一塁側や三塁側に体勢が流れない。

 最大の強みはいろいろな球種でストライクがいつでも取れること。ノーワインドアップから力まず体全体で投げるので、制球も安定している。直球は150キロもあったが、平均143~146キロ前後。スライダー、フォークも低めに決まる。それに加えてカーブと120キロ台前半のチェンジアップという緩い球も自在に操っている。だから直球も球速以上に速く見え、打者は差し込まれる。

 吉田正に二つの四球を与えたが、いずれもフルカウントから内角への変化球。吉田正はまったくタイミングが合っていなかった。左打者の吉田正から見ると隅田のフォームは、右肩で左手のボールの出るところを隠しているように見えて、とてもタイミングが取りづらい。隅田はそういう自分の特長、自分の良さをよく知っていて、思い描いたとおりの投球をした。

 西武では菊池雄星以来、エース格といえる左腕がいなかった。ようやく出現した左のエース候補だ。カーブなど緩い球を操るクレバーな投球は雄星よりも工藤公康に近いタイプかもしれないね。疲れはどこかで出るし、自分の思いどおりの球がいかない時も来るだろう。だが、ある程度ローテーションを回ってくれれば、12、13勝はするだろうという期待を持っている。

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東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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