創刊100周年を記念して、「週刊朝日と私とその時代」をかつての連載陣に聞きました。今回は作家・演出家の鴻上尚史さんです。◆「鴻上夕日堂の逆上」(1987年1月~88年12月)、「鴻上の知恵」(1991年1月~92年12月)

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 1987年に村上春樹さんの人気連載エッセー「村上朝日堂」が終わって、僕の連載が始まりました。タイトルは「鴻上夕日堂の逆上」。単に「朝日堂」のあとは「夕日堂」だろうと安易にひっかけて決めさせてもらいました。連載開始早々、僕はひとつウソをついたんです。最初の原稿で「ハルキさんに頼まれてこの連載を始めました」って。実際には村上春樹さんに頼まれたわけじゃなかった。だから「春樹」じゃなくて「ハルキ」と書いたので、ギャグとして読んでもらえるかなと思ってやりました(笑)。わかる人にはわかってもらえたのではと思っています。

「鴻上夕日堂の逆上」は僕にとって初めての週刊誌での連載でしたので、かなり気合を入れて書いた記憶があります。当時、毎週その号の記事の中から編集部が気になる文章をピックアップしてまとめるページがあって、僕の文章がよく取り上げられていたので、手ごたえを感じながら続けていました。僕の書いたことはちゃんと届いているなと喜んでいたのですが、なぜか2年で連載終了となってしまいます。

 でも、その2年後くらいにまた連載を依頼され、「鴻上の知恵」というタイトルで再開しました。何より嬉しかったのは、僕の最初の連載を評価してくれていた人がいたことがわかったこと。そうでなければ、また頼まれるってことはなかったと思うので。

 週刊誌で連載をしていると、よく「毎週毎週大変でしょう?」と聞かれます。でも、僕は締め切りで苦労したことがあまりないんです。確かにネタがないぞ、というときもありました。でも、そういうときはネタがないこと自体をネタにして書いていました。原稿を数行にわたって空白にして、ネタがなくて頭が真っ白な状態を表したり(笑)。そういう実験的な文章も許してくれた編集部の方には感謝しています。

 ところが、再開した連載も2年で終了ということになりました。なので、いまだに僕の連載はどういう評価だったのか、わからずじまいです。

 とはいえ、4年もの長きにわたってエッセーを連載させていただけたことには、大変感謝をしています。週刊朝日で連載をしたということで、ほかのメディアでも書く機会につながっていったと思っています。

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年生まれ。81年に劇団「第三舞台」を結成し、数々の演劇賞を受賞。現在は旗揚げした「虚構の劇団」で作・演出を担当。映画監督、小説家、エッセイストなどとしても活躍中

週刊朝日  2022年2月25日号