赤木俊夫さんの手記や遺影などを掲げながら会見で話す妻の雅子さん
赤木俊夫さんの手記や遺影などを掲げながら会見で話す妻の雅子さん

 岸田文雄内閣が誕生して約3か月。5万円クーポンでの方針転換など、政策のブレが際立つが、内閣支持率は上昇した。安倍晋三、菅義偉両政権の強権政治に比べ、岸田氏は「柔軟」で「国民に寄り添う」総理と映るのだろう。

しかも、世の中は、クリスマス、忘年会と、華やぎの季節。正月が来れば、岸田氏の「ブレ」など過去のこととしてリセットされてしまいそうだ。

 しかし、「リセット」を許してはならないこともある。その代表が森友学園問題だ。同学園への国有地の不当安値販売をめぐり、安倍元総理夫妻の関与の疑いを隠すため、公文書の改ざんを強要された元近畿財務局職員・赤木俊夫さんは自殺に追い込まれた。その妻・雅子さんは、俊夫さんを死に至らしめた本当の理由を知るために、国を相手取り損害賠償請求訴訟を起こして果敢に戦った。

 これに対して、先日、政府側は1億円強の賠償請求をそのまま「認諾」する旨突然表明した(請求を認めて1億円を支払うという意味)。請求を丸飲みすることで訴訟を終結させてしまったのだ。審理が本格化して様々な事実関係が明るみに出る前に、という魂胆が見え見え。ただ、2022年2月9日の公判前、このタイミングを選んだのには、もう一つの狙いがある。年末年始の一連のイベントで、認諾に対する国民の怒りを「リセット」できるという読みだ。

 私は、政府のこの卑劣な仕打ちに対して、岸田総理の聞く力は『まやかし』だとツイートした。すると、雅子さんから「聞く力なかったです。まやかしでした」「心にぽっかり穴が開いたみたいです。一つ終わりましたが肩の荷は一層重くなった気がします」というショートメールが入った。

 岸田氏の「聞く力」は「まやかし」だったということへの雅子さんの同意。だが、すぐに私は、岸田氏がこの問題で「聞く力」を発揮するチャンスがあるのではと考え直した。当初、安倍傀儡と疑われた岸田総理だが、今は安倍氏から独立する動きを見せ、安倍氏の怒りを買っている。両氏の主導権争いが激化しているのだ。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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