歌手、写真家としても活躍する女優の松田美由紀さんが60歳の誕生日の10月6日、東京・丸の内のCOTTON CLUBで、“シネマティック・ライブ・ショー”と題したライブを開く。表現者として、11月に三十三回忌を迎える亡き夫の松田優作さんから受け継ぐもの、還暦ライブにかける思いを聞いた。

――松田美由紀さんと聞くと“女優”というイメージ。そのライブとは?

 あるミュージシャンに「ひとりミュージカルだね」って言われました。自分で書いたものも含めて自分の心情に合った詩を集め、曲は既成のシャンソン・ナンバーですが、それを自分で集めて、構成を自分で考え、朗読しながら歌う……そんな不思議なライブです。これまでの人生で楽しかったこと、つらかったこと、全てを、私にしかできない、音楽に乗せた表現で伝える“トラウマのライブ”とも言えるものですね。

――トラウマ?

 モノ作りをする人間にとってトラウマは、大きなエッセンスでもあるんです。自分の人生で起きること全てが自分の表現力の一つになるんですよ。一般の人だとトラウマをどこに吐き出していいのか分からないと思うんですが、表現者には吐き出す場があって、私もそうだった、って共感してもらうことができる……実は私は、それが表現する者の醍醐味の一つじゃないかと思うんです。

――それを実感した場面は?

 フランスのシャンソン歌手のバルバラは暗い過去を背負っていると言われていた方で、『黒い鷲(ワシ)』という曲を書いてます。すごく強い力のモノが近付いてきて覆いかぶさられる……みたいな歌ですが、初めて聞いたときに、ものすごく涙が出て、《優作の歌だ》と思ったんですよ。それが前回の2019年のシネマティック・ライブをやる前のことで、《これを歌おう》と思ったんです。

 で、そのライブの後半、優作に対する気持ちを歌って、ラストにその歌を歌ったんですが、会場のお客様が皆、泣かれたんです……感動して頂けたんですね。ウチの子供たちも「母さん、素晴らしかったよ」と言ってくれました。そのとき《自分の負のモノも、表現することで人の共感を生み、人を癒やすことができるんだ》と学びました。《自分が抱えてきた孤独も、共感してもらうことで、お返しできるんだ》って。で、それが表現者の大事な役割だと思いました。

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「小さな光が、暗いところだとよく見える」