東尾修
東尾修
巨人に移籍した中田翔(右)と原辰徳監督 (c)朝日新聞社
巨人に移籍した中田翔(右)と原辰徳監督 (c)朝日新聞社

 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、中田翔選手が起こした暴力問題について語る。

【写真】巨人に移籍した中田翔選手と原辰徳監督

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 日本ハムで同僚への暴行行為で出場停止処分を受けた中田翔内野手が、8月20日に巨人へ電撃トレードとなった。

 日本ハムが処分を科したのが11日。わずか10日でのトレード劇、そして21日には巨人で1軍登録されたことに、野球ファンのみならず「おかしいな」という声は多かったでしょう。

「なぜ日本ハムで謝罪がなかったのか」「巨人もモラルを守るべきではないか」「出場停止処分はどこへ消えたのか」「NPBがルールを作るべき」などの声が聞かれた。日本ハムの中田としての謝罪は当然、あるべきだったと、私も思う。ただ、日本ハムは、今はそれ以上に、被害選手への心のケアをしっかりしてほしい。球団全体で守ってあげてほしい。そちらの気持ちのほうが強いよね。被害選手がそっとしておいてほしいというのならば、どんな補償ができるのか。そこは公表しなくていいから、尽くしてもらいたい。

「NPBがルールを作るべき」との意見も届いていると思う。それは今後12球団で議論を深めてもらいたい。相当難しい問題だとは個人的に思う。単純に「Aという球団で出場停止中の選手は移籍できない」とするならば、「球団の飼い殺し」や、「移籍させるために処分解除」なども考えられてしまうからだ。あらゆる角度からのルール検証が必要だ。

 日本ハムは暴行を重く受け止め、出場停止にし、もうチームとして中田を抱えては機能できないと考え、トレードを模索した。巨人は批判を承知で受け入れた。その事実だけを見れば、双方間違ったことはしていない。ただ「道義的問題」「暴行に対する対応」は問われている。プロ野球が「暴行に寛容なのか」と思われないためにも、当事者間だけのもので終わらせてほしくはないよね。

 少し視点を変えよう。球団にとって「王様」的な存在の選手は必要なのか。それは、その中心選手がどれだけ「人間力」があるかにかかっている。実績を積んでいくと同時に、毎年加入してくる選手とは、1年1年と年が離れていく。若い選手は声すらかけられなくなる。ベンチで「王様」が不機嫌になれば、チーム全体が暗くなる。そういった負の要素を理解し、常に自分はどういった立ち位置でいるべきか。それを考えられる中心選手でなければ、年々重たい存在となる。

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東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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