野村被告を乗せて自宅(北九州市小倉北区)を出る警察車両=2014年9月/朝日新聞
野村被告を乗せて自宅(北九州市小倉北区)を出る警察車両=2014年9月/朝日新聞
野村悟被告/朝日新聞
野村悟被告/朝日新聞

 福岡県内であった一般市民殺傷4事件で、福岡地裁が国内で唯一の「特定危険指定暴力団」工藤会(本拠・北九州市)のトップに死刑を言い渡した。長く暴力団事件や捜査を取材してきた緒方健二・元朝日新聞編集委員と朝日新聞記者がトップの実像に迫った。

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「公正な判断をお願いしたけど全然公正じゃない。こんな裁判あるんか。あんた生涯ねえ、このことを後悔するぞ」

 8月24日午後4時すぎ、福岡地裁101号法廷で、直前に求刑通りの死刑判決を言い渡された男は裁判長に向かって、そう断続的につぶやいたという。

 男は全国で唯一の特定危険指定暴力団・工藤会トップの野村悟被告(74)だ。傍聴していた朝日新聞記者によると、大声ではなかったが、怒りをにじませていたように聞こえたという。

 1998年2月の元漁協組合長(当時70)射殺や2012年4月の元福岡県警警部銃撃など市民襲撃4事件で、工藤会ナンバー2の田上不美夫被告(65)とともに殺人などの罪に問われ、一貫して無罪を主張していた。無期懲役を言い渡された田上被告も「ひどいねえ、あんた、〇〇さん」と裁判長の姓を挙げて呼びかけるように言ったという。

 一連の事件捜査にかかわった元警察幹部は、報復予告とも取れる両被告の発言を「意に沿わない者を許さない本性が現れたのではないか」ととらえる。

 朝日新聞の司法担当記者によると弁護団は26日、記者団に野村被告の発言について説明した。接見した弁護団に野村被告は「こんな判決を書くようでは裁判官としての職務上『生涯後悔することになる』という意味で言った。脅しや報復の意図で言ったのではない」と話したという。

 工藤会は「日本一危険な暴力団」とされる。福岡、長崎、山口の3県を勢力範囲とし、警察白書によると、昨年末時点の組員は約270人。九州・沖縄では最大規模だが、山口組(本拠・神戸市)の約3800人、住吉会(東京)の約2600人、稲川会(東京)の約2千人には遠く及ばない。

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要求を拒む市民・企業、摘発に励む警察に対しては冷酷な牙をむく