瀬戸内寂聴 横尾忠則の個展で上京へ「何もかも、最期になる」

2021/07/09 16:00

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

【横尾忠則さんの写真はこちら】

*  *  *
■横尾忠則「画家の職業は郵便屋さんの仮の姿です」

 セトウチさん

 今週から僕が再び「往」に返り咲きました。さて、と考えていると担当編集者(以後「担編」(笑))の鮎川さんが「横尾さん、なぜ郵便屋さんになりたかったんですか?」。ハイ、決まりました。この事を書きましょう。

 今の画家の職業は郵便屋さんの仮の姿です。郵便屋さんになりそこないの画家です。何が僕を郵便に引きつけたのかはわかりません。僕は子供の頃から運命論者で、運命を切り拓くなんて発想は全くない、成るように成ることに全身全霊おまかせです。面倒臭いことが大嫌いで、他力に従うのが一番楽、と思う僕は怠け者の思想家の子供だったんです。

 だから大義名分のために何かをするのが大嫌いで、理由のないことに夢中になる非目的性の子供全般の生き方をそのまま大人になるまで体現したいと思っていたのです。それが郵便屋さんだったのです。郵便屋さんは特別のクリエイティブなことをしなくてもいい。葉書の住所へ郵便を運ぶだけでいいのです。この郵便はどこへ持って行こうかな? なんて余計なことを考える必要はないのです。定まったことを定まった通りにやるだけだから勉強嫌いの僕にはピッタリの職業だと思っていました。

 子供の頃から切手と、全国の郵便局の風景入り日付スタンプの蒐集はプロの郵便マニア級です。高校時代に郵政省に申請して郵便友の会を結成して他校との情報交換。正月休み、夏休みは郵便局のバイト、その合間に内外のペンパルとの文通、ハリウッドスターへのファンレターなど高校時代は郵便生活が主流。期末試験はほとんど追試験。全て郵便屋さんになるためには学業は犠牲。

 高卒と同時に京都郵政研修所に入る予定が、「郵便屋になんかなるな、美大へ行け」と校長と美術の先生の方針で東京の美大に願書を提出。いよいよ明日が受験日だという前夜、東京に来ていた美術の先生に「明日の受験は止めて郷里に帰ってくれ」と訳のわからないことを言われて、帰郷。人の人生、何やと思っとるんや、と啖呵(たんか)を切りたいところだが、まあ、これも運命や、運命に逆らったらアカンと田舎の優柔不断なゴクラクトンボの横尾少年は、自力に従うより他力に従った方が、楽でいい、そうしまっさ、と世間のいいなりになる。

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