半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■瀬戸内寂聴「私は現在数え百歳で、死にそうもない」
ヨコオさん
さんざん気をもませたオリンピックはやることに決まったかのように、昨日の新聞では、会場で、酒を売るかどうかなど論議している様子が書かれていた。何考えてるのかね、全く。
ごたごたした疲れが、どっと出たらしく、東京都知事の小池百合子さんが、ついに過労で倒れてしまった。
まあ、このオリンピックのごたごたの中では、倒れないのが不思議だったから、当然のことだろう。
軽い症状で、再び元気になって、厚化粧の鮮やかな笑顔を見せてほしい。
このまま、倒れては、あんまり可哀そうだ。
何だかんだと、悪口を言われてきたけれど、私は、小池さんは、そういう悪口にも背をしゃきっと伸ばし、相手にしないで、自分に向いてきた運をしっかりと握りしめ、よくやったと見てきた。
何といっても外観が華やかなのがいい。化粧が濃すぎるとか、着るものが派手だとか、まるで意地悪な小姑のような悪口が、よく言われていたが、言う方がつまらない人物に見えた。
女として充分魅力もあるのに、つまらない色ごとの噂など寄せ付けないところは、なかなかのやり手だと感心する。
今度の過労が、単なる過労で、私の最近のように入院して、じっとしてれば、すぐ回復する容体であるように、かげから祈っている。
別の新聞に、伊集院静さんが、くも膜下出血から生還したと、大きく写真入りの記事になっていた。
自分の体調の衰えに気がとられて、他人の健康状態など、全く気にもかけなかったので、つきあいもない伊集院さんの、病気のことも、今まで全く知らなかった。私は伊集院さんに会ったことは一度もない。書かれたものは時々目に触れて達者な文章に引き込まれてついつい読んでしまうことがあるものの、熱心な愛読者とは言えない。週刊誌に連載されている身の上相談の回答文に、思わず吹き出すほど、ひそかに愛読しているなど、勿論、伊集院さんは御存じないだろう。