病院生活は結構愉しいものです。小さいスケッチブックを持って待合室で盗み描きをします。また老人や病人の表情は実に魅力的です。ジーっと観賞しながら頭の中のスケッチブックにクロッキーします。また一日に何回もコンビニに行って週刊誌を片端から買って、テラスでココアを飲みながら、週刊誌は因果応報、自業自得の仏教書だと思って読みます。(あれ前にも書いたかな?)

 一度入院すると、他の気になる身体の部分も調べてもらったり治療もしてもらいます。そして身体に自信をつけて、病院の環境にも飽きた頃に、出来上がった絵とともに退院します。そして久し振りのアトリエで、再び絵筆を取ります。病院だけではなく、小旅行でも現地調達で画材をホテルや仕事先に用意して、ここでも制作です。絵から離れると病気になります。といって一ケ所で描いているとこれも病気になります。絵を描くことでストレスにはならないけれど、同一環境ではストレスになって、その挙句病気になります。

 長期入院は、まだ絵が描き終ってないために入院が長引きます。とにかく病気より、絵が最優先です。絵が健康にいいのは頭を空っぽにするからです。考えて考えて描く画家もいるかも知れませんが、少なくとも僕は観念や言葉を排除しないと絵が描けません(アレ、これも以前書いたね)。その点アスリートに似ているように思います。身体にまかせるタイプの画家です。アスリートは競技中、いちいち考えないで身体に全てまかせているはずです。と同じように自作の説明を要求されても、上手く答えることができません。「こうなっちゃったんですよね」としか言えないんです。だから、僕の絵は観賞する人の想像力で完成させてくれればいいんです。

週刊朝日  2021年7月9日号