林:へぇ~、そうなんですか。

加藤:それでエッセーの仕事などをやってたんですけど、プライベートの切り売りみたいなことに疲れちゃって。やっぱり小説がいいなと思って書いたのが『ピンクとグレー』だったんです。そしたら「『ピンクとグレー』って案外いいぞ」とか、「あの作家さんがほめてたよ」「どこどこの編集者さんがほめてたよ」という声が聞こえてきて、そのときはほんとに涙が出ましたね。書店回りをしたときには、「書き続けないと応援できないよ」と言ってくれる書店さんもありました。

林:まあ、いいこと言うじゃないですか、書店の人。

加藤:それもあって書き続けたんです。書くことが楽しくて、疲れてても、おもしろい話を思いついたら書かずにいられないという。

林:それは作家としていちばん大切な要素ですよ。書けなくなった作家ってみじめですからね。誰とは言いませんけど。

加藤:書き始めたのが2011年だったんですけど、それから10年、書くモチベーションに関しては、まったく変わらなかったですね。直木賞に落ちたときに「もういいか」とも思ったんですけど、次の日にはもう別の作品を考えてましたから。

林:素晴らしいッ!

加藤:逆に『ピンクとグレー』で賞をもらってなくてよかったなと思いましたね。あのとき過大評価されてたら、そこで満足しちゃったかもしれないけど、「まだまだイケるぞ」と思えましたから。

林:これからも書き続けてほしいと思いますよ。作家の皆さんも加藤さんに好意的なんじゃない? これだけ長いこと作品を出し続けている誠意を皆さんが認めて、好意的に迎え入れようとしているんじゃないかと思いますよ。こんなこと言うと偉そうだけど。

加藤:(芸能界より)作家界のほうがやさしいかもしれないですね、そういう意味では。

林:私が理事長をやっている日本文藝家協会に、加藤さんが入ってくれるとうれしいな。あまりメリットはないけど、保険があるし、文学者のお墓に入れるし(笑)。

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