林:なるほどね。

加藤:だからこの作品で今年の直木賞の候補になったとき、直木賞はとることがいちばん難しい賞というイメージがあったので、「えっ、なんで?」と思って、自分がいちばんびっくりしました。いろんな方の選評を読んで、「おっしゃることはわかるけど、最初からそんなつもりで書いてないからさァ」みたいな気持ちになったんですけど、それが今回勉強になったというか、次に向かってやる気がすごく出ました。

林:それを聞いてすごくうれしいです。加藤さん、直木賞ノミネートはまだ1回ですよね。私は4回だったけど。

加藤:4回ですか。僕、たった1回の「待ち会」(担当編集者たちと選考結果を待つ集まり)で、こんなに大変なんだと思いました。精神的に不安定でしたね。「残念ながら……」って聞いたときのみんなのガッカリした顔を見るのはつらかったです(笑)。

林:私のときは、ワイドショーの人たちとかが数十人来たんですよ。

加藤:それ、4回ともですか。

林:来ました。私が「皆さん、毎回毎回集まっていただいて。NHKの紅白みたい」と言ったら、それもまたたたかれて(笑)。直木賞をとれば作家として認めてもらえると思ったのに、とったあともああだこうだ言われるし、それから10年間、賞もなくてすごくつらい日々になりましたよ。直木賞以降にもまだあるんです、賞レースが。

加藤:吉川英治本賞とかですか。

林:吉川英治本賞まで行くのは大変です。その前に柴田錬三郎賞とか中央公論文芸賞とかいろいろあって。でも、直木賞はいちばん華やかでわかりやすいから欲しいですよね。テレビの画面にテロップが出るのはあの賞だけだし。

加藤:ああ、確かに。

林:この業界、「又吉以前」「又吉以降」というのがあって、又吉(直樹)さんが芥川賞をとったあと、いろんな人が書くようになったけれど、華やかな芸能人の人って、1作か2作で書くのをやめちゃうんですよね。だって、そんなにお金にならないし。加藤さんがお書きになるものって、私から見るとうらやましいほど売れるけど、印税なんて加藤さんにしたら「ケッ」と思うぐらいわずかなものでしょ。

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