「米中ともに全面戦争ではなく、『海洋限定戦争=島嶼戦争』に収めるでしょう。しかし、住民は避難できず犠牲になってしまいます」(小西氏)

■米国一辺倒より「仲介役」目指せ

 陸自は今年9月から11月にかけ、中国を念頭に置いた島嶼防衛を想定し、全隊員約14万人が参加する過去最大級の演習を行う。巨大な軍事力を背景とした中国の海洋進出は懸念するほかないが、これでは威嚇の応酬にしかならない。新外交イニシアティブ(ND)の猿田佐世代表はこう語る。

「抑止力は、崩れたら戦争になるのが前提です。日本では抑止力信仰が強く、それが崩れた時には自分の町にミサイルが飛んでくるという現実は誰も考えていない。ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は、米中いずれかの踏み絵を踏まされることを嫌がっています。米中が戦えば、日本は最前線になります。日本は米軍陣営で中国に対峙する姿勢を取るのではなく、米中対立を和らげる仲介役を果たすべきです」

 シンクタンク・言論NPОの日中共同世論調査によれば、米中対立下の日本について、「日中協力を進める」と回答した日本人はトータルで半数近くに上り、「米国と行動を共にする」と回答した14.2%を大幅に上回った。

「小競り合いや紛争が始まれば、世論が反中国一色になり、紛争を煽ることになりかねない。その前にこうした市民感覚を、もっと政治に反映するようにしなければなりません」(猿田氏)

 米国の戦略ゲームのカードになって、戦場になるのは日本なのだ。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2021年5月21日号