ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
イラスト/ウノ・カマキリ
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 総務官僚の不祥事が大きな問題になっている。なぜ、最近の日本の政官界には緊張感がないのか。ジャーナリストの田原総一朗氏が考察する。

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 前回も記したが、菅義偉首相の長男が関わった、前代未聞といえる、何とも神経のたるんだ不祥事をどう捉えればよいのか。

 繰り返し接待された総務官僚の中に、1人でも2人でも断る、あるいは自分の代金は自分で負担するという者がなぜいなかったのか。あまりにも情けない。総務官僚たちはいつから倫理とは無縁な存在になってしまったのか。さらに、不祥事が明らかになった後、なぜ自民党の国会議員たちが誰一人として菅首相にただすということがなかったのか。

 日本の政官界に緊張感というものがまるでない。たるみっぱなしだ。これこそが大問題なのである。

 私は安倍晋三氏が首相のときに、実は大失敗をした。安倍首相の政策について神経をとがらせ、言うべきことを言ってきたが、1994年から小選挙区制が導入され、政党助成金ができて、マネースキャンダルというものがなくなったことで、私はマネースキャンダルに関心を失い、森友・加計疑惑をまったく取材しなかったのだ。

 その後、「桜を見る会」の問題が噴出し、私は、これはとんでもない税金の私物化だと捉え、当時官房長官であった菅氏に「自民党は腐っているのではないか」と言った。

「かつての自民党ならば、安倍首相が後援会の人間たちを会にどんどん送り込めば、実力者の誰かが、やめなさい、と言ったはずだ。だが、実力者の誰一人、やめよと言わず、自分たちの後援会も会に送り込んでいる。これは腐っているとしか言えない」

 私が言うと、菅氏は「田原さんのおっしゃることに弁解も反論もできない」と答えたのである。

 森友疑惑にしても、安倍首相や昭恵夫人は、8億円値引きせよ、などとは言っていなくて、佐川宣寿理財局長(当時)が、自分の地位を守るために安倍首相に過剰に忖度し、国会でつじつまの合わない発言をした。矛盾が露呈するのを恐れて、決裁文書の改ざんを命じざるを得なかったのである。問題はなぜ財務官僚の誰一人、改ざんの必要などない、と言えなかったのかということだ。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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