われわれは今まで鬼を過大評価してたんじゃないか?

 イヌとサルとキジを連れたたった一人の若者に制圧され、宝物まで奪われたうえに泣いて謝る鬼。3センチの小人をのみ込んだと思いきや、腹の中から針で突かれて泣きだす鬼。人間と友達になる代わりに青鬼がいなくなり、真の友の大切さに気づき泣く赤鬼。来年のことを言われただけで涙を流して爆笑してしまう、笑いの沸点の異常に低い鬼。金棒を持たないとカチ込めないステゴロの弱い涙目の鬼。部活の合宿に行ってる間に、お気に入りの白Tシャツをジーンズと一緒に洗濯されて「染まっちゃったじゃんっ!(涙)」と泣いて怒る鬼。

 本当はこんなに泣き虫なのに、普段の強面イメージのためにちょっと泣いただけで「いやぁ、あの鬼さんが涙してるよ……あの鬼さんっ! ぜひオススメのコメントを頂きたいのですが!」と新作映画の試写会場で、映画配給会社の広報から声を掛けられる鬼。出したコメントは『全鬼が泣いた、オレの目に涙』。今年は全国の節分会が自粛になった。寄席の豆まきも中止。結果的にホッとしてるんだろう、鬼。来年はそうはいかないぜ、鬼。お互いに手指の消毒、マスク着用でな。待ってるよ、鬼。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

週刊朝日  2021年2月19日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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