古賀茂明氏
古賀茂明氏
野党に長男の疑惑を質問され、ピンチの菅総理(c)朝日新聞社
野党に長男の疑惑を質問され、ピンチの菅総理(c)朝日新聞社

 最近、霞が関の残業削減の議論が盛んだ。昨年9月に就任した河野太郎国家公務員制度担当相が、「霞が関をホワイト化する」と述べてこの問題への関心が一気に高まった。

【写真】この人に霞が関がホワイト化できない理由を聞いてみたい

 国会議員による役所への質問通告の時間を早くするという動きもあるが、これで深夜残業がなくなるかといえば、望み薄だ。

 官僚の残業といえば、ある自民党議員のこんな言葉を思い出す。

「夜の会合の後に霞が関を通るたびに、こんな時間までありがとうと、頭を下げるんだよ」

 これを翻訳すると、こういうことだ。

「こっちは業界の接待で料亭や銀座のクラブで遊び惚けてるのに、深夜に議員宿舎に帰る途中、霞が関を通ると役所の明かりが見える。俺たちの利権のために残業してくれたのかと思うと、官僚たちにはただただ感謝だ」

 官僚は、国民のニーズを吸い上げるために昼間は現場に出なければならない。そのうえで、専門家の知識や海外事例も研究してまともな政策をタイムリーに出していくためには時に深夜残業も必要だろう。

 しかし、実際の残業は意味のない、あるいは国民にとって害にすらなるものであることが多い。例を挙げてみよう。

 一番多いのは「官邸主導」「政治主導」の名のもとに、結論と納期ありきでおかしな政策の実施が強要されることだ。安倍政権や菅政権では、官僚は、その政策に異を唱えることができない。無理な政策を「もっともらしく」見せるというのは、本来できないこと。「ミッション・インポッシブル」だ。資料を作って上司にあげてもダメ出しの繰り返しで、徹夜になるのは自然の流れだ。

 次に、政治家や役所幹部の不祥事。これを隠ぺいしたり、不祥事ではないように見せかけるための労力も並大抵のものではない。本当のことを話してよければ、野党ヒアリングでサンドバッグになることもなく、準備も不要で、ヒアリングも30分で終わるだろう。

 さらに省庁の利権を守る仕事も全く同じだ。不当な利権はなくすということが許されれば、まともな政策になるが、許されないから、たたかれどころ満載の政策になる。それを守るための作業に膨大な時間がかかる。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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