それにしても、連邦議会議事堂には、警備に当たる議会警察(USCP)があり、しっかりと警備していれば、暴徒たちの乱入は阻止できていたはずである。ニューズウィークで、コラムニストのグレン・カール氏は「暴徒たちは、議事堂内で議論する議員たちを守る役目の警官の一部から、少なくとも暗黙の支援を受けているようにも見えた。警備担当者の一部については、暴徒が議事堂周囲のバリケードを通り抜けるのを許し、彼らと一緒に自撮り写真に興じる姿が映像に残っている」と書き、「大惨事の原因は計画的な行動ではなく、組織的無能の結果ではないか」と捉えている。

 陰謀論が生じるほどの前代未聞の出来事だが、トランプ氏が「恐るべき不正選挙だ」と主張し続ければ、心底からのトランプ支持者たちは、こうした事態に行き着かざるを得なかったのではないか。

 デモクラシーとは自分と異なる意見の存在を認めることが基本だ。そのために議論が長びき、えてして決められない政治にもなりうる。その結果、ドイツ国民は何でも決められるヒトラーを選び、決められないオバマ政権に失望した米国民は、反デモクラシーのトランプ氏を大統領に選んでしまった。トランプ氏は米国第一主義のために、デモクラシーなどクソくらえだと身をもって示した。だから、必然的にあの惨事が生じたわけだ。

週刊朝日  2021年1月29日号

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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