林:ああ、なるほど。

中野:日々格差を感じてつぶれそうな気持ちを皆、抱えている。「上級国民」なんていう言葉がどこからともなく出てきて、多用されましたよね。池袋の暴走事故がきっかけでしたか。

林:元エリート官僚が運転していた車が暴走して、母子が死んで何人もが重軽傷を負った事故ですね。

中野:ええ。「特別扱いされている人たちと自分たちは違うんだ。自分たちの存在価値はあるのか」ということを毎日自問自答している人も少なくないのではと思います。

林:そういう人たちがテレビを見てるわけですね。

中野:「俺も勉強を頑張ったらああなれるのか」とか、逆に“珍獣”たちの失敗を見て溜飲を下げるとか。

林:でも、テレビをそうやって見てる人は「頑張って東大に行こう」なんて思ってなくて、「あの人たちとは頭の構造が違うんだ」と思ってるんじゃないですかね。

中野:生まれつきの要素は否定できませんが、生まれた後の要素もけっこう大きいんですけどね。後の要素には親の経済力なども確かに効いてきますが、本質は経済力そのものより、養育者の教養ではないかという議論があります。子の教育に関わる人の知的水準によって、子どもの成績が変わることも十分にあり得ます。また、後天的な要素は自分でも調整できる部分がありますから、そこはあきらめずに野心を持つべきだと私は思います。

林:中野さん、このところ立て続けに本を出してらっしゃいますけど、『空気を読む脳』(講談社+α新書)という本を読んだら、「子どもをほめなさいと言うけれども、実験するとけっこうそうでもないことがわかった」とおっしゃってますね。

中野:そうなんです。「能力をほめるのと、努力をほめるのとでは結果が違うよ」ということですね。能力をほめると、今ある能力以上のことに挑戦しなくなってしまったり、未知の問題に直面したときにそれを回避する性格になってしまったりということがわかっているんです。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力:一木俊雄)

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