カレーを南インドの主食である米と共に。もともとはムガルの食文化で北インドで盛んなタンドール料理も提供する。チキンカレー1500円、サフランライス800円、シークカバブ1600円。税別 (撮影/倉田貴志)
カレーを南インドの主食である米と共に。もともとはムガルの食文化で北インドで盛んなタンドール料理も提供する。チキンカレー1500円、サフランライス800円、シークカバブ1600円。税別 (撮影/倉田貴志)
1985年に現在の地に移転。長い間、24時間営業を続けていた (撮影/倉田貴志)
1985年に現在の地に移転。長い間、24時間営業を続けていた (撮影/倉田貴志)
料理長のワシンさんは在日28年 (撮影/倉田貴志)
料理長のワシンさんは在日28年 (撮影/倉田貴志)

 今もまだ残る古き良き店を訪ねる連載「昭和な名店」。今回は千代田区二番町の「アジャンタ」。

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 香辛料が鼻腔を強く刺激する。一口食べると、複雑な辛さが口の中にジワリと広がっていく。

「インド人のお客さんから『なんでこんなに辛くするんだ』と言われることもあります」

 と笑うのは、2代目店主のアナンダ・ムールティさん。

「もともとは南インドのアーンドラ州出身の父が、家庭料理を出していたんです。アーンドラは、インドで一番辛い料理を出す地域。使うスパイスの種類も量も、他とは違うんですよ」

 初代のジャヤさんは、日本で貿易会社を経営していた兄の勧めで1940年に来日し、東京工業大学に入学。勉学のかたわら、兄とともにインド独立運動に参加。指導者のチャンドラ・ボースが亡くなった際には、日本軍から遺骨を引き渡されたという。電気技師として働き日本人女性と結婚したジャヤさんは、ある日、鶏を使って家族にカレーを振る舞った。それを気に入った夫人の後押しで、

「57年に阿佐谷にある母の実家を改築して、コーヒーとカレーの店を開いたんです。本格的な料理を出すようになったのは、61年に九段に移ってから。日本人の舌に合わせるという発想はなく、地元の料理を愚直に作り続けました」

 その辛さにインド人もビックリ。(取材・文/本誌・菊地武顕)

「アジャンタ」東京都千代田区二番町3-11/定休日:なし/営業時間:直接お問い合わせください

週刊朝日  2020年9月25日号