「ためこみ症は、2013年にアメリカ精神医学会、19年に世界保健機関(WHO)の診断基準に新たに加わった精神疾患です。日本の医師の間でもそれほど認識されておらず、悩み孤立する当事者や家族が少なくないのです」

 ためこみ症は、それ自体でひとつの精神疾患だ。自宅にモノを置くスペースがないのに、(1)モノを増やす(2)整理や片づけができない(3)処分できず保管し続けてしまう。

 その結果、部屋が物品で散らかり、「足を伸ばして眠れない」など、自宅が倉庫化して日常生活に支障をきたす状態となるのだ。「ルーズな人」と捉えられがちで病気とは思われない。そのため、医療機関による適切な治療を受ける機会を逸してしまうのだ。

 なぜためこみ症になるのか。米国の調査では、ためこみ行動をする大半の人が、子どものころから症状が見られたというデータがある。

 子ども時代は親が、結婚すれば妻や夫が片づけるので、それほど目立たない。年をとって独居になってはじめて、自分が片づけられないことに気づくのだ。前出の清掃会社スイーパーズ代表の小山さんも、こう話す。

「高齢者の“ごみ屋敷”にはたいてい、若いころの服や古いフライパンなどが、積み重なっています。新しいモノを買っても捨てられない方というのは、昔からそうであったのかなと感じます」

 うつ病や認知症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など他の疾患が素因となる場合もあるが、いずれも本人なりの理由があるのだ。

 自宅トイレに排せつ物を堆積させたケースもあった。

「統合失調症の患者さんで、本人は『自分の排せつ物を流すと、外に汚染が拡大して大変なことになる』と考えていました」(五十嵐教授)

(本誌・永井貴子)

週刊朝日  2020年9月18日号より抜粋