こうしたニセコのように、外国資本による日本の山林取得は増えている。

 林野庁が5月に公表した調査結果によると、「居住地が海外にある外国法人または外国人と思われる者による森林買収の事例」は06~19年で264件にのぼり、総面積2305ヘクタールに達した。東京ドームの500倍近くになる。

 ただ、山林を買う外資の実態はよくわかっていない。国内に拠点を持つ外資のケースもあり、実際の買収は林野庁のまとめよりもずっと多いとみられている。

 林野庁によれば、取得する目的としては「資産保有」が多く、「別荘地開発」や「太陽光発電」などもある。いずれにしても放置されたままの場所が目立ち、「中国や香港の資本が多かった」(担当者)。

「山の値段はタダみたいなもの」。こう語るのは、日本林業協会の関係者だ。実際にインターネットで売買されている山林の価格を調べると、1坪当たり数十円ほどであることが多い。「海外の人が取得しても、開発しようとする話を聞いたことがなく、土地を持っていることに意義を見いだしているのではないか」とも推測する。

 日本は国土の66.4%が森林で覆われ、森林率でフィンランドやスウェーデンにも匹敵する「森林大国」でもある。高度経済成長期には、建設用資材や紙製品向けに木材需要が高まり、1980年ごろに木材価格は高値をつけていた。しかし、大規模な伐採の跡地に植林されたスギなどが育ち、伐採期を迎えるには数十年もの年月がかかる。海外から安い木材が輸入されるようになり、高齢化や後継者不足も進んで日本の林業は衰退の一途をたどった。

 日本人の多くが“二束三文”だと思っている山林に、なぜ外国人は手を伸ばすのか。

 元農林水産省局長で姫路大学特任教授を務める平野秀樹さんは、「資産隠し」のためだと指摘する。

「外国人が日本の山林を買うと、保有税のかからない資産にできる。固定資産税がかからないようにできるのです。『所有者不明』にもできるため、誰が持っているのか、当局にはわからなくなります」

 企業が買って登記しても、ダミー会社などをはさむことも少なくないという。

 日本国憲法は財産権を保障しており、外国人の所有者に対しても同じように認められる。外国人は日本の山林が宅地よりも安いと判断し、長期的な値上がりを期待しているのではないか、と平野さんはみる。

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