その一方でGoogleマップで潔白が証明された人もいた。ある広島県議は検察から事情聴取され、「克行容疑者から30万円もらっとるはずだ」「克行容疑者と案里容疑者はリストを作ってカネをばらまいた。そこに名前がある」と何度も詰め寄られた。県議も事情聴取の時、スマートフォンを任意提出した。

 検察はGoogleマップのアプリの履歴から、克行容疑者と県議が接触しているか、否かを調べていたという。

「県議は広島市内に向かい、克行容疑者は広島市内から田舎の方に向いて走っているような履歴になっていた。履歴が重なったのは、道路上でお互いが逆方向ですれ違っているだけ。スパイ映画じゃあるまいし、さすがにこれでは金銭の授受はできないとなった」(前出の広島県議)

 今まで検察ではあまり利用されなかったスマートフォンの位置履歴を利用した画期的な捜査が行われた結果、前法相逮捕という前代未聞の事件の突破口が開かれたのだ。元東京地検特捜部出身の弁護士がこう解説する。

「近年スマートフォンが非常に便利になったことで得られるデータが捜査にも使えると判断したのでしょう。Googleマップの位置情報は正確性が高いことで知られていますからね。位置情報に河井容疑者夫妻のばらまきリストを重ね合わせると、より客観性が増したということでしょう。ただ、スマートフォンを持っていない人には使えない弱点がある。スマホ頼みの捜査だけでは難しい」

 案里容疑者は週刊文春のインタビューで3月3日に東京のホテルにいるところを家宅捜索された際に<スマホが持っていかれていましたけどね>と語っている。

「河井容疑者夫妻のスマートフォンを任意提出してもらったとき、SNSの一部など履歴を削除していた。だが、Googleマップの履歴は残ったままで捜査には影響しなかった。削除されていれば、捜査はもっと難航したかもしれません」(前出の捜査関係者)

 スマホが大きな明暗を分けたのだ。自民党のベテラン議員はこう苦笑する。

「ワシはガラケーしか使えんから大丈夫だ。河井容疑者夫妻のスマホの話を聞いて、急にガラケーに変えようとして携帯電話ショップに行った議員もいるよ。身に覚えがある連中がいるのかな。やはり、前法相が夫婦で逮捕というのは重い。世論調査で支持率も急落だろう。1億5千万円の捜査次第では、安倍政権は終了するかもしれない」

(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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