一席目は『の災難』という滑稽噺。酔っ払いの一人語りがメインの落語なので、お客の反応を気にせず出来る。ま、反応が無いので気にしようがないのだが。ただ気を抜くとすぐ間がズレる。ズレてもお客が居ないので支障はない。ズレた拍子にいつも言わない変なことを言っている。「いけね」と軌道修正し、またはみだして、それを自分で面白がっているうちに中入り。「なんかいいな」が半分終わっての感想。劇場を借り切って壮大なお稽古してるかんじ。

 二席目は『百年目』。「周囲に堅物と思われている大店の番頭が芸者幇間をあげて向島に花見に出掛ける。浮かれている最中、運悪く自分の主人に出くわした番頭は一晩眠れぬ夜を過ごす。明くる日、主人に呼ばれ暇を出されるかと思いきや……」という主従の絆を描いた花見頃の人情噺だ。終盤、主人が番頭に暖簾分けを切り出す場面。「来年の春は前祝いに二人でお花見に行きましょう、番頭さん」なんてキザなことを挟みつつ無事終演。

 穏やかな花見は来年まで我慢していただくとして、今年中に雰囲気だけでも味わいたい方は、4月26日(日)午前9時からTBSチャンネル2「春風亭一之輔春の毒炎会2020」をご覧ください。以上、宣伝でした。やっぱりお客さんの前でやるのが一番なんだけどね。

週刊朝日  2020年4月24日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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