彼の著書『人がガンになるたった2つの条件』(講談社+α文庫)に詳しいのですが、細胞内でエネルギーを生み出す仕組みは二つあります。

 一つは解糖系です。これは食べ物から得られる栄養素(糖質)をエネルギーに変換するシステムで、そのエネルギーの特徴は瞬発力。即効性はあるが量は少ないのです。

 もう一つはミトコンドリア系です。食べ物の栄養素(糖質、脂質、蛋白質)に加えて酸素や日光なども利用するシステムで、そのエネルギーの特徴は持久力。即効性はないが作られるエネルギーの量は多いのです。

 この二つは20歳から50歳代では1対1の比率で働いて調和しています。この頃が人生の最盛期です。60歳代からは、老年期を迎えると、ミトコンドリア系の働きが主体になっていきます。瞬発力ではなく持久力の世界に入っていくのです。

 これを自律神経の面から見れば、瞬発力は交感神経(興奮)の働きであり、持久力は副交感神経(平静)の働きです。つまり、歳をとると興奮よりも平静が中心になっていくのです。これは「いい人」になっていくということですね。

 しかし、人生のときめきという意味では、解糖系のふるまいも必要です。ミトコンドリア系ばかりに傾くのではなく、時には興奮してみる。つまり、いい人をやめる。これがナイス・エイジングの方法ではないでしょうか。

週刊朝日  2020年3月27日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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