「鶯をたづねたづねて麻布まで」

 六本木に古くからある和菓子店「青野」に、句をしたためた額がかかっていた。ここは鶯もちで有名な老舗。

 鶯は一年中、日本にいる留鳥のような気がしていたが、春になると東南アジアや中国から渡ってくるものもいる。

 その鶯の通り道が麻布なのだ。

 したがって我が家のある広尾も通り道に近い。ビルが立ち並んで緑が少なくなり、私のいるマンションの丘だけに緑が残っているので、さまざまな鳥たちが来る。緑があれば、必ず生物は息を吹きかえす。

 おまけに我が家のリビングは東南に大木を抱えて、まるで樹の間に住んでいるようなので、鶯がいても不思議はない。

 それにしても今年はどうしたんだろう。それでなくても不安のはびこる日々、なんとなく落ち着かない。春告鳥の声が待ち遠しい。

※週刊朝日 2020年3月20日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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