新型コロナウイルスの感染拡大が政治問題になっている。初動が遅れたのではないかという見方があり、政府は流行地に滞在歴のある外国人らの入国拒否を1月31日になって表明。指定感染症に関する政令も2月1日から施行した。
「桜を見る会」の問題を野党から追及され、国会で苦しい答弁を繰り返していた安倍首相は、国民に指導力をアピールしようと必死だ。与党議員や政権支持者からは、「桜よりもウイルス問題を議論すべきだ」といった意見も出ている。
自民党の世耕弘成参院幹事長は1月29日、参院予算委員会を見た感想をツイッターに書き込んだ。
「野党の質問が始まって40分経過しましたが、先刻武漢からの飛行機が到着し、目の前に総理や厚労大臣等、新型コロナウイルス感染症に対応している責任者が列席している。このシチュエーションで感染症について質問をしない感覚に驚いています」
立憲民主党の蓮舫議員に疑問を呈したものだが、実際は後に続く議員が感染症関連の質問をしていた。
蓮舫議員はツイッターでこう反論している。
「行財政改革は私の政治家としての芯です。税金の私物化は絶対にあってはいけないとの想いで質問に臨みました。今日、我が会派の質問者6人はそれぞれ質問が重ならないように事前に話し合って分担しています」
国民の不安が高まっているだけに、与野党とも新型コロナウイルスの問題をこぞって取り上げようとしている。自民党の一部議員からは、緊急事態に対応できるように憲法改正が必要だとの主張も飛び出した。冷静な議論が求められる感染症の問題が、政治利用されようとしているのだ。
医療の専門家は、いまの状況では過度に心配する必要はないと訴える。
神戸大学大学院医学研究科・感染治療学分野の岩田健太郎教授は、「今回、日本の対処はおおむね妥当だと思っています」とした上で、こう指摘する。
「国会では科学ではなく世論が基準になってしまいます。世論は必ずしも正しくありません。パニックになると政治家は世論におもねって、患者を隔離しようという話になってしまう。官僚は政治に人事を握られていますから、従うしかない。科学的に議論するからこそ人権も守られる。冷静に判断して意思決定できる独立した組織が必要です」