会見後に組み手のポーズをする素根輝(左)と兄の勝さん (c)朝日新聞社
会見後に組み手のポーズをする素根輝(左)と兄の勝さん (c)朝日新聞社
2020年の顔 1/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
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2020年の顔 1/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
2020年の顔 2/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
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2020年の顔 2/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)

 柔道ファン以外には、まだ、それほど知られた存在ではないだろう。素根輝と書いて<そね・あきら>とよむ。2020年東京五輪の柔道日本代表に第1号で選ばれた。女子最重量級の78キロ超級で金メダルをめざす。

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「初めての五輪は想像がつかない。どんな重圧や不安と闘うことになるのかなって」

 19年8月の世界選手権で初優勝を果たすと、同11月のグランドスラム大阪を制覇。元世界女王の朝比奈沙羅(23)を一気に逆転し、五輪切符をつかみ取った。

 身長162センチ、体重110キロ。この階級ではひときわ小柄だが、本人は、この体こそ「武器」だと胸を張る。下から突き上げる巧みな組み手で相手を消耗させ、軽量級のような俊敏な動きで懐に飛び込む。見上げるような大きな相手も、切れの鋭い背負い投げや大内刈りで投げ倒す。

 無尽蔵の体力や大きな海外勢にも潰されないパワーは、「誰にも負けない」と自負する練習量の成果だ。福岡県久留米市出身。父の行雄さんは柔道経験者で、3人の兄は先に道場に通っていた。末っ子の素根が小学1年で柔道を始めたのは自然の流れだった。以来、道場で、部活で、父が自宅に設けた練習部屋で柔道漬けの日々を送ってきた。乱取りは納得がいくまでやり通す。腕や肩の力が弱点と言われれば、就寝前の200回の腕立て伏せを日課にした。座右の銘「3倍努力」を地で行く稽古の虫だ。

 家族の支えも大きい。高校時代から練習相手を務めているのが長兄の勝さん(23)。ほぼ同じ体形で、えびす顔もうり二つの兄と妹は二人三脚で戦ってきた。素根が練習相手に不足なく稽古に打ち込めるのは、何万回と組み合った兄のおかげ。大会前には対戦相手の対策を練る参謀役にもなる。最強の「付き人」だ。

 19年春、素根は環太平洋大(岡山市)に進学。勝さんも妻子を連れ、職場も変えて妹のそばに移り住んだ。

「自分は福岡県で3、4番手の成績しか残せなかった。輝はすごい。いろいろな経験をさせてもらって感謝しています」

 と勝さんは言う。五輪まで残り約200日。素根も兄の支えを実感する日々だ。

「何もかも自分のためにやってくれている。結果で恩返しするしかない」

(朝日新聞スポーツ部・波戸健一)

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号