電話対応に慣れていない新人オペレータはどう返していいかわからず、しどろもどろになって固まってしまっていた。ロールプレイングを進めるうちにどんどん顔面は蒼白になっていき、見るからに痛ましい様子だった。
「ちょっとAさん! さっきのロープレなんなんですか!?」
研修が終わった後、私はAさんを捕まえ声をかけた。けれどAさんは「え? なにか問題なの?」としれっとした様子だ。
「クレーム対応をロープレでやるっておかしくないですか? オペレータさん困ってましたよ」
「いやいや何言ってるの? 俺は新人オペレータのことを思ってやってるんだよ!」
「へ?」
そのAさんのあまりに自信満々な態度に、私は再び驚いた。
「実際に電話を取るようになったらクレームはいっぱいくるだろう? だから、その時に困らないように、俺はあらかじめクレームの練習をしてやってるんだよ」
Aさんはまったく悪びれる様子もなく「俺は親切でやっているんだ」と自信ありげな様子だった。そして驚き、固まる私を後にそのまま立ち去ってしまった。
これは立派なパワーハラスメントだと私は思う。
この業務はオペレータさんに不必要なストレスを与えているし、現にそれが原因で辞めてしまっている人もいる。そしてこの問題がやっかいなのは、Aさんが「お前のためだ」と思ってこの指導を行っていることだ。けれど世の中には、「お前のためだ」と言ってハラスメントをしてくる人が数多くいるのだ。
「世の中に出たらもっと辛いことがあるんだぞ」と言って厳しい指導をしてくる人。
「お前を鍛えてやってるんだ」と無茶な要求をしてくる人。
「お前は人間として甘い。俺がまともにしてやる」と言って説教ばかりしてくる人。
そんな人が、あなたのまわりにいないだろうか。
しかし、考えても見てほしい。「今は物騒だから、道を歩いているだけで殴られることがあるだろう。だからその時に備えてお前を殴っておく」と言って殴ってくる人がいるだろうか?