「日本の法人税率が高すぎるというのは、大企業の負担を引き下げ、その分を庶民に押し付ける口実です。支払い能力に応じて負担するのが、本来の税のあり方です。法人税率はいくらもうかっていても同じ。法人税も累進税率にして、もうかっている会社はそれなりに負担するべきです」

 こうした主張に説得力があるのが、企業がお金をため込んでいる現状だ。利益の剰余金である「内部留保」は増え続けている。財務省の法人企業統計によると、18年度の金融業・保険業を除く全産業の内部留保は463兆1308億円と過去最高。7年連続の増加で、前年度から3.7%増えた。

 法人税が低いことで、経営者はもうけをため込みやすい。もし法人税が高ければ、国に取られるぐらいなら給料や設備投資を増やそうという経営者も出てくるはず。消費増税で個人消費が落ち込み、景気の失速が見込まれているいまこそ、法人増税すべきだとの意見もある。

 企業にとって有利なケースとして、輸出企業の消費税の還付制度も挙げられる。上の表を見てわかるように、輸出大企業は巨額の還付金を受け取っているようだ。個別の数字は非公表だが、元静岡大教授で税理士の湖東京至(ことうきょうじ)さんが推計した。湖東さんは、還付金は輸出企業への事実上の奨励金になっていると指摘する。

 消費税は、ものやサービスがつくられていく過程で段階的に課税される。最終的に負担するのは最後に買い物をした人だが、納税するのはものやサービスを売った企業だ。

 生産や流通段階で二重三重に税がかからないよう、税が累積しない仕組みになっている。例えばお店で千円の商品を買ったとしよう。千円の10%の100円を店が国に納めるわけではない。お店は客から受け取った消費税から、仕入れなどで払った消費税分を引いた額を納めるのだ。つまり仕入れ額が仮に900円で支払った消費税分が90円だとしたら、納めるのは100円から90円を引いた10円になる。

 輸出する場合は、海外では日本の消費税はかけられない。最終的な輸出企業は、仕入れなどで払った消費税分の還付を受けることができる。本来支払う必要がなかった消費税分が戻ってくるだけで、企業にとって得にも損にもならないはずだが、実は企業にとってうまみがあるとされる。

 なぜなら、消費税分をきちんと下請け業者に支払っていないこともあるためだ。米国のトランプ政権も、この還付制度が事実上の輸出補助だと問題視している。

「下請け企業が消費増税分をきちんと転嫁できない事例はよくあります。輸出企業は消費増税で還付金が増え、ますます潤うことになります」(湖東さん)

 税金の仕組みを知れば、庶民がいかに不利なのかがよくわかる。「企業は天国、庶民は地獄」とも言える制度を黙って受け入れず、公平な税制を求めていきたい。(本誌・吉崎洋夫、浅井秀樹)

週刊朝日  2019年10月4日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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