周囲の空気を忖度することなく、フェルジナンドで居続けたい。21条の表現の自由や25条の生存権にもかかわる絵本とも読める。

 次は、この5月に刊行された向田邦子原作の絵本『字のないはがき』。戦争中、実際に向田さん一家にあった「事件」だ。まだ文字を書けない最も幼い妹が疎開するとき、父親は宛先を書いたたくさんのはがきを手渡す。元気な日は丸をかいて投函するように、と。最初は大きく元気だった丸がやがて小さくなり、そして。エッセイ集『眠る盃』の一編がこんな風に絵本になって、「伝え継ぐ」ことを諦めない姿勢を問う。

 帯には、「権威を疑う!」、「多数派を疑う!」と、「疑う!」だけ赤い文字で印刷された松尾貴史さんの『違和感のススメ』。当たり前の違和感を掌に握り重ねる暮らしの確かさが全編に溢れている。そうそう、と頷き、大笑いしながら唸る、風通しがすこぶるいい本。立川志の輔さんとの巻末対談も軽やかにして、ドン!と心に響く。

おちあい・けいこ=1945年生まれ。元文化放送アナウンサー。子どもの本の専門店クレヨンハウス、女性の本の専門店ミズ・クレヨンハウス主宰。著書に『泣きかたをわすれていた』など。

■片岡義男(作家)
(1)『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』山本章子 中公新書 840円
(2)『決定版 消費税のカラクリ』斎藤貴男 ちくま文庫 880円
(3)『日本が外資に喰われる』中尾茂夫 ちくま新書 940円

 いまそこにある事実の可能なかぎりぜんたいを、そしてその事実の可能なかぎり正しい情報を、自前で知ること。とにかくまずいちばん大事なのは、これだ。知ること。それは行動につながる。

 知らなければ、動きようがない。知らないのだから、そのことに関して、なにも出来ない。だから出来ないまま、なにもせずにいると、現状は全面的に肯定されたことになる。知らないから、なにもしないでいる。なにもしないでいると、すべては肯定されたことになる。

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