※写真はイメージです (Getty Images)
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 参院選での与党勝利を受け、安倍晋三首相は改憲論議の進展に意欲を示し、野党は反発を強めています。「週刊図書館」の夏休み読書特集では、この機会に憲法について考えてみようと、絵本から専門書まで、様々な分野から、おすすめの3冊を選んでもらいました。

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■落合恵子(作家)
(1)『はなのすきなうし』マンロー・リーフ文 ロバート・ローソン絵 光吉夏弥訳 岩波書店 640円
(2)『字のないはがき』向田邦子原作 角田光代文 西加奈子絵 小学館 1500円
(3)『違和感のススメ』松尾貴史 毎日新聞出版 1400円

<亡くなった人が後に遺してゆくのは、その人の生きられなかった時間であり、その死者の生きられなかった時間を、ここに在るじぶんがこうしていま生きている>

 詩集『詩ふたつ』(クレヨンハウス)にそう記されたのは、詩人の長田弘さんだった。

 憲法は、戦争の時代を生きた人々、生きられなかった人々、生きのこった人々、いまを生きるわたしたちや未来を生きるであろう人々に向けての希望と理想の「器」であり、権力者の暴走を縛る鎖だ。平和主義、国民主権、基本的人権等々どれもが手放してはならない暮らしの根っこ、奪われてはならない酸素でもある。

 韓国との「無礼」の応酬。ホルムズ海峡有志連合結成への米政府の呼びかけ。参院選で9議席減らしても「20年改憲」を唱える政権下で、憲法を易しく体現する本を選んでみた。

 まずは前文、9条にかかわる一冊として、ご存知の絵本『はなのすきなうし』。スペインの牧場で暮らす子牛フェルジナンドは、他の子たちと違う。他の子牛たちは闘牛の牛になることを人生の成功、名誉と位置づけているようだが、彼は関心なし。木陰に腹ばって花の香りをかぐのが、彼の至福の時だ。

 しかしひょんなことから闘牛場に連れていかれるが、どんなに煽られ追い詰められても彼は戦おうとはしない。牧場に帰された彼は今日も静かに花のにおいをかいでいる……。

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