“この言葉を歌うのは勇気がいったけど、すごく心地が良かったし、私もおばさんになることを認めて、カッコいいおばさんになれたらいいなって思いますね”と語っている。

 Charaとの共作が2曲。Charaが作・編曲、キーボードを担当し、制作も手がけた「曖昧 me」はニュー・ウェイヴ風のギター・ロックだ。

 人を信じられなくなった心の揺れや迷いを描いた曲で、歌詞を書くにあたって抱えていた“悪い夢”から抜け出せずにいたところ、Charaが“嫌な出来事を吐き出せる状況を作ってくれ”たという。“意味とか辻褄とかは関係なく、音の中で生きてる”Charaから“新しい歌詞の生み出し方も学べた”とも。

 もう一曲、「ミモザ」はピアノとプログラミングによる演奏をバックにしたバラード・ナンバー。切々と歌いかけたラヴ・ソングで、ヴォーカリストとしての新境地を見せている。

 その2曲に挟まれた「clione」は、新進のソング・ライターでトラック・メイカーのAAAMYYYの提供曲。編曲も彼女によるエレクトロ・ポップだ。本当はしあわせなはずなのに“生きてるだけでせつない”ことを描きたかったという。

 偶然の出会いをテーマにした「セレンディピティ」、“スクラップ&ビルド”をテーマにした「BREAKER」などポジティヴなメッセージを託した曲の歌いっぷりも新鮮だ。

 「ストレスポンジー」ではコミカルな展開を見せ、ハウス・ビートに乗せた「戦闘的ファンタジー」では、きゃりーぱみゅぱみゅや、ももクロ、globeやtrfのメロディーを織り込む遊び心もあって楽しませる。

 締めくくりの表題曲「いちご」では作曲も手がけた。“15年で積み上げてきたこと、成長できたことの感謝を込めて作った”曲であり、ギターとエレピによるシンプルな演奏をバックに丹念に歌っている。

 木村カエラはデビュー以来、何をやるにしても全力投球で、完璧主義でもあり、うそはつけずに来た、突っ走り続けるために変わり続けようとして来た、と語っている。そつのない優等生的なイメージもあった。

 本作は彼女が長年テーマとしてきた“今を生きる”こと、“生きていることの証”、新しい木村カエラの誕生を物語る。はつらつとした歌声がなにより魅力的だ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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