海外から帰ってきた、日の丸国旗をかけられた棺を見ても、あなた方はなにも思わないのかと。

 いいや、彼らはそれをも利用するだろう。亡くなった人々を英雄扱いし、異を唱えると非国民扱いする。政治がしっかりしていれば、メディアが勇気を持って政権批判をしていれば、亡くならずに済んだ命もあった、という反省にはならない。

 そして、国民は並べられた棺の映像にはじめは驚き、でもそのうち慣れてくる。芸能人のスキャンダルと同等のニュースとして捉えるようになる。選挙があれば、どれだけ不祥事が重なっても、巨大与党へ投票する。

 かつて、田中角栄氏は、憲法9条を盾に、泥沼化するベトナム戦争への派兵要請を断った。それはつまり自分が盾になり、米国と戦う覚悟だったということだ。

 そんな大人は少なくなった。この国は、見た目は大人の、グロテスクな子どもばかり。ちゃんと大人になろうじゃないか。

週刊朝日  2019年8月2日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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