「退職金はどんどん下がるぞ!」というような脅し文句も並び、庶民の不安を高めるには十分な内容だ。

 これに対して、今や労働者の4割を占める非正規労働者や増加した貯金ゼロ世帯の人たちを含め、「投資しろと言われても無理!」「俺たちを見捨てるのか」という声が沸き起こった。

「人生100年」は一気に国民の間に浸透したが、実は、庶民は言われなくても節約している。年金が信頼できないことも先刻承知だ。だから、よほど裕福な人でなければ、安心して消費することはできない。

 政府は、不安を煽れば、「年寄りが働き」「国民は投資する」と都合の良いことだけ考えているが、それによって深刻な構造不況──それを私は「人生100年不況」と呼ぶ──が続くことは認識していないようだ。ましてや、楽しそうに「人生100年」を口にするお金持ちの麻生副総理(金融庁担当)には想像も及ばなかったのかもしれない。

 残念ながら、今後、消費増税をやめても、景気は決して良くならないだろう。

 となれば、安倍総理としては、解散するなら今しかない。人生100年レポートで一気にダブル選とは、何とも皮肉なことではないか。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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