「これから予定される支出を、いまの家計をもとに書き出して表に整理します。税金や社会保険料を含め老後にお金が毎月、毎年いくら出ていくのかわかれば、必要となる収入の目安がわかる。年金で足りない分は蓄えを取り崩したり、老後も働いたりして補うことになります」(同)

 いったん繰り下げや繰り上げを決めたら、後から変更できない。キャッシュフロー表をつくり、時間をかけて判断しよう。

 働く高齢者は全体的に増えている。高齢社会白書によると、60~64歳で約7割、65~69歳で約4割、70~74歳で約3割が仕事をしている。年金だけでは生活できないため、働き続ける人が目立つ。

 こうした人の意欲を阻害する制度が「在職老齢年金」。60歳以上の厚生年金受給者が働くと、収入に応じて受給額が減額・停止される。60~64歳は28万円超、65歳以上は47万円超で受給額が減らされる。

 第一生命経済研究所の星野卓也・副主任エコノミストは、高齢者の働く意欲を阻害すると指摘する。

「65~70歳の間に年収600万円を得ていたと想定します。試算では年金の受給開始を70歳まで5年繰り下げたとしても、年金の増額率は本来の42%から20%台にとどまってしまう。高齢でも高所得の人は、繰り下げのメリットが少ない。能力のある高齢者が低賃金の仕事を選んだり、働くことをやめてしまったりすることにつながりかねません」

 自民党の人生100年時代戦略本部は、5月にまとめた社会保障改革に関する提言で在職老齢年金の縮小・廃止を呼びかけたが、財源の確保が難しく実現のめどは立っていない。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2019年6月14日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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