FPが行う家計予想は「積み上げ型」といわれるものだ。使い道別に金額を予想して月額の生活費を決め、それと現在の貯蓄額から長期の推移を見ていく。積み上げ型では100年時代を乗り切るのは難しそうだが、実は老後資金には、もう一つ計算方法がある。

 フィデリティ・インターナショナルが世界的に使っている「退職準備の指標」がそれだ。人間はできあがった生活スタイルを変えることは難しいから、「退職後の生活は現役時代最後の生活水準に規定される」として老後資金を考えていく。こちらは必要になる金額が「総額」でわかる。これだとどうなるのか。

 3つの計算式を見てほしい。一番下は現役時代の資産形成のための式なので、二つが重要になる(下記参照)。

「個人資産代替率」とは、退職後の生活費のうち自分で用意しなければならない金額(生活費-年金)の対年収比率のこと。ご覧のように、最終年収に個人資産代替率をかけて個人資産からの引き出し額を求める。それに退職後の生活年数をかければ必要な老後資金が出てくる。退職後の生活年数は自分で決める必要があるが、それ以外は裁量の余地が少ない客観的な数字だ。

 フィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史所長が言う。

「全国消費実態調査をもとにすると、退職直前年収の『72%』程度が退職後の生活費になり、個人資産代替率は『39%』が幅広い年収帯にあてはまることがわかりました。それで計算すると、67歳で退職して93歳まで生きる場合、年収7年分(別に退職金として2年分)が必要であることがわかりました」

 もっともこれは年金収入を厳しめに見積もり、運用も保守的にするなどしており、「若年世代向けの指標」(野尻所長)とのことだ。このため、本誌読者向けに現在の退職世代に応用すればどうなるかを試算してもらった。

 最終年収は「650万円」、生活費はその約7割の「450万円」を使う家計を想定した。現状の水準で年金と資産取り崩しの比率は6対4くらいなので、年金収入は270万円、毎年の個人資産からの引き出し額は「180万円」とした(個人資産代替率は約28%)。期間は60歳から95歳までの35年間にした。

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