演奏会を鑑賞する両陛下(c)朝日新聞社
演奏会を鑑賞する両陛下(c)朝日新聞社
コンサートで演奏する館野泉さん(提供)
コンサートで演奏する館野泉さん(提供)

 左手のみで演奏活動する世界的なピアニスト舘野泉さんは、天皇陛下が即位する前から、ご夫妻との交流を続けている。皇后さまとは連弾もしており、次の機会に向け、楽譜もすでに渡してあるという。天皇皇后両陛下の退位後、披露する日はそう遠くないかもしれない。

【画像】コンサートで演奏する館野泉さん

 舘野さんは、以前からフィンランドと日本を行き来しながら活動を続けており、初めて両陛下に会ったのもフィンランドだった。

 即位前のこと。同国の日本大使館に両陛下が訪れることになり、国内で活動する日本人が集まった。両陛下は並んでいる人たちに順番にあいさつして回った。

 舘野さんの前に来た陛下は、「美智子がいつもあなたのお話をしています」と話しかけ、皇后さまは「やっとお目にかかれました」と声をかけた。

 舘野さんが当時を振り返る。

「そのとき皇后さまは、ぼくが以前に書いた文章をそらんじていらっしゃった。あれはきっと、フィンランドの作品を集めたLPアルバムに書いたものだと思います」

 翌日、両陛下は作曲家シベリウスの自宅「アイノラ荘」へ出向いた。そこである出来事が起こる。

「森の小道で皇后さまがスズランを見つけ、『きれいね』とおっしゃったそうです。そしたら、100人くらい詰めかけていた両国のマスコミが、『花を手にポーズをとってほしい』とお願いした。だが皇后さまは『野のものは野に置いとくのがいい』とおっしゃって断られた。これが大ニュースとなり、翌日の新聞で大きく取り上げられていました」

 皇后さまが1993年に失語に見舞われたとき、舘野さんは天皇皇后両陛下から御所へ招かれた。事前には、演奏するという話は聞いていなかったが、歓談後、「演奏してください」と言われて4~5曲弾いた。終わると、さらに「もう少し弾いてほしい」と言われてまた演奏し、結局、一緒に招かれた舘野さんの妹とも何曲か披露したという。

 このときは、皇后さまも「シベリウスの曲を用意しているので聴いてください」と筆談で示し、「樅の木」を披露。アドバイスを求められた舘野さんが、「たとえばこの部分はペダルを長く踏まれて、徐々にこうやって緩めて音を消していくといいと思います」と実演してみせると、皇后さまは舘野さんの足元をのぞきこむように見ていたという。

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演奏会で皇后さまがサプライズを提案