前川喜平さん。本連載では読者からの前川さんへの質問や相談を受け付けています。テーマは自由で年齢、性別などは問いません。気軽にご相談ください。
前川喜平さん。本連載では読者からの前川さんへの質問や相談を受け付けています。テーマは自由で年齢、性別などは問いません。気軽にご相談ください。
通勤ラッシュの様子 (c)朝日新聞社 (※写真はイメージです)
通勤ラッシュの様子 (c)朝日新聞社 (※写真はイメージです)

 文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は、出世競争に負け、人間関係に悩む50代男性からの相談です。

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Q:職場の後輩に、すごく優秀なヤツがいて、そいつが自分を超えていきました。こいつに対し、自分はこれから、どういうスタンスで接し、生きていったらいいのか教えてください。(愛知県・56歳・男性・会社員)

A:ふうむ。短いご質問ですが、何だか感情がにじみ出ていますね。「そいつ」とか「ヤツ」とかいう言葉の端々に、あなたの面白くない気持ちが表れています。

 確かに、働いていると、どうしたって仕事の評価は気になるし、組織で上にいくということが大きな意味を持つかもしれない。だけど、職場における評価が自分の幸せに直結するわけじゃありません。自分の人生で何が幸せかという問題になりますが、例えば巨額の富を築いた末に、特別背任などの容疑で逮捕・起訴されたカルロス・ゴーン日産前会長の人生は幸せなのか。僕は人間の幸せって、出世や金儲けだけじゃないと思うし、本当に大事なことは他にあると思う。

 それに、優秀だからいい人間とも限りません。優秀だけど、人間として嫌なヤツだってたくさんいます。私が以前いた文部科学省でも、仕事ができるけど、人間的に尊敬できない人はたくさんいました。組織の上からは仕事ができるように見えた人が、下にとっては全く仕事ができない人だったというケースもたくさんありました。有能かどうかは、人間的魅力とは全く関係のないことです。

 あなたの後輩は、直接あなたの上司になったのか、あるいは違う部署なのかわかりませんが、彼のことが不愉快なら、できるだけ会わないようにするのが良いのではないでしょうか。もし何らかの関わりを持たざるを得ないなら、愛想笑いもせず睨みつけもせず、ただ淡々と、ビジネスライクに接したらいい。とにかく「後輩が自分を超えた」ことにこだわりを持たないことではないでしょうか。

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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