最初は架が傲慢、真実が善良という役回りだったのに、いつのまにか入れ替わり、真実の母親は娘を心配しつつ束縛し、かつて婚活で出会った人たちも両方の面を見せる。書いていて傲慢と善良がどんどん浮き彫りになっていった。

 いつも以上に書くのが楽しかったというこの作品では、辻村さんにとっても充実感のあるシーンが生まれた。その一つが、真実を失った架が地方のショッピングモールの家族連れを見て、自分もこの一人になりたかったと涙する場面だ。

「どこにでもある日常の風景が心情によって世界の終わりみたいに思えてくる。こういうことが書きたくて作家になったと思えたシーンです。書けて本当によかった」

 作家デビューから15年のこの作品には、男女関係、親子関係の今が痛いほどリアルに描かれている。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2019年4月5日号