そのような状況下で戦後、着実に育ってきたのが渦中のオリオンビールだ。今やビールの製造・販売だけでなく、リゾートホテルやビジネスホテルといったホテル事業も手掛けており、観光客が増えるなか稼働率も高水準にある。さらにゴルフ場も運営し、そこにテーマパークを建設するという話も出ている。地元でイベントや文化事業を幅広く支援しており、オリオンビールは、影響力の大きい存在なのだ。

 オリオンビールは財務内容が非常にいい会社というのは東京商工リサーチ沖縄支店の友利政人支店長。「ファンドは含み資産が大きいところにしか入らない」と話す。

 優良資産を持つ会社は、投資ファンドにとって魅力的。だからこそ、長期的な視点で育て、地元に還元するつもりはあるのか、と買収を複雑な気持ちで受け止める地元住民もいるのだ。

 オリオンビールによると、ビール販売は出荷量で、県内が約8割、輸出4%、そのほかが県外の国内。ビールの海外販売戦略には、慎重な見方もある。帝国データバンク沖縄支店の内野順徳支店長は「輸送コストもあり、そんなにもうかるのだろうか」と指摘する。

 また、今回の買収については「お家騒動」が発端との見方も出ている。沖縄タイムスの報道によると、経営陣に不満を持つ創業家の親族が、一部の株主に対して少なくとも1年前に株式公開買い付けによる株売却を打診していたという。創業家の親族が持つ株式総数は全体の15%以上。配当金が低いなどの不満があったとみられている。見知らぬ第三者に株式が譲渡されるリスクを回避するため、今回の投資ファンドによる買収につながった可能性を指摘する地元関係者もいる。

 今後の経営がどうなるのか、沖縄県民は固唾をのんで注視している。
(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2019年2月8日号