株式公開買い付けを受けて開いたオリオンビールの会見(c)朝日新聞社
株式公開買い付けを受けて開いたオリオンビールの会見(c)朝日新聞社

“オキナワ味”と親しまれているオリオンビール。沖縄県を代表する企業の買収を巡って、地元では反発の声が出ている。

 買収を手掛けるのは、野村ホールディングス(HD)と米投資ファンドのカーライル・グループ。総額570億円をかけて株式の公開買い付けを行う。アサヒビールが筆頭株主だが、ほかにも個人投資家など株主は約600人おり、それぞれの持つ株をまとめることで経営の安定化を図り、海外などでビール販売を拡大し、5年後の株式上場も目指すという。

 これに対して、地元選出で日本維新の会の下地幹郎衆院議員はネットで反対の考えを表明。「外資ファンド買収に対する県民の怒りの声は強い。地元のビールとして育ててきたビール産業を、本土と外資ファンドが買収することは許せません」「野村HDや米カーライルは県民すべてに説明し、理解を深めてほしい」などと呼びかけている。

 一方、オリオンビールは取締役会で公開買い付けに賛同し、株主にも応募するよう推奨することを決議。次のように発表している。

「当社の企業価値向上に資するということ、公開買い付け完了後も引き続き当社は沖縄地域経済・社会に貢献していく姿勢を変わらずに堅持していくこと、『沖縄県民のビールである』というアイデンティティを維持することを前提として行われたものです」

 今回は敵対的な買収ではないことは明らか。だが、その一方で「沖縄県民のビール」という表現が表すように、一企業の買収を超えたニュースであるのは確かだ。この複雑な県民感情を理解するには、背景を知る必要がある。

 沖縄では1972年の本土復帰から、県内販売を優遇する国の支援策が続いてきた。酒税優遇措置は、県内の製造所で生産し、県内出荷なら、泡盛で35%、ビールで20%を軽減される。

 税制優遇措置の目的は産業振興だ。裏を返せば、それだけ地域経済が脆弱だったのだ。第2次世界大戦の沖縄戦では4人に1人が死亡したという歴史的な事情と、本土から遠いという地理的事情、在日米軍基地が集中しているという社会事情が影響している。

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