「ここがフェルメールが住んでいたところです」とデルフトの地図の中心部を指さす福岡伸一さん。1959年、東京都生まれ。生物学者。青山学院大学教授。著書に『フェルメール 光の王国』、『深読みフェルメール』(共著)など(撮影/岡田晃奈)
「ここがフェルメールが住んでいたところです」とデルフトの地図の中心部を指さす福岡伸一さん。1959年、東京都生まれ。生物学者。青山学院大学教授。著書に『フェルメール 光の王国』、『深読みフェルメール』(共著)など(撮影/岡田晃奈)

 フェルメールの作品を多数、日本で見られる機会がやってくる。そこで、日本を代表するファンである生物学者の福岡伸一氏に、その魅力を解明してもらい、楽しみ方を教えてもらった。

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 私がフェルメールに関心を持ったのは、顕微鏡を自作したレーウェンフックと同じ都市出身で、同じ生年月だと知ったことがきっかけです。あとになって、ニューヨークの美術館フリック・コレクションでフェルメールの3枚の絵を見る機会があり、衝撃を受けました。以来、取り憑かれたように各地の美術館に出かけ、盗難にあった1枚の絵以外はすべて現地で見ました。

 科学者という視点で見ると、フェルメールもまた科学者的マインドを持っていた人だと思います。それは完璧な遠近法で描いているからです。

 フェルメールはカメラ・オブスクラという現在のカメラの原型といわれる投影機を使って正確に遠近を描いたといわれていますが、私はフェルメールがレーウェンフックと知り合いで、この装置を紹介されたのではと推測しています。

 また、科学者は恣意的にものを解釈せず、世界を中立的に捉えようとします。フェルメールも当時の最先端の機器を使い、目の前の世界をありのままに表現しようとしています。画家であれば主人公に光を当て、見えないものも描くでしょう。そうはせず、公平に描いている。それが、フェルメールの絵が時代を超えて愛される魅力の一つであると思います。

 フェルメールは、作品以外は何も残していません。作品の着想メモも、デッサンも、スケッチも、文章も何もありません。残されたものは三十数点の絵しかなく、とても謎に包まれた人です。それ故、作品を何度も見ることになるのです。

 私は飽きるほど見ていますが、今でも、その度に発見があります。ついつい深読みをしてしまうのも、魅力でしょうね。

 展覧会などで作品を見る際は、ただ並べられている順番に見るのではなく、絵が描かれた時代順に見ることをおすすめします。そうすることで、画家が何を描くかを模索し、宗教画から遠近法を取り入れ、進化していくさまを知ることができます。

 フェルメールの絵の魅力は絵の中だけにあるわけではありません。絵と絵の間にもあるのです。

(構成/本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2018年10月12日号