東京や横浜市内で葬儀サービスを展開する蒼礼社の塩田正資社長(41)は、火葬場の混雑ぶりをこう話す。東京23区では、高齢の参列者の移動の負担が少ない、火葬場併設の式場に予約が集中する。冬場は、1週間以上待たなければならない場合もあるという。

 人口10万人あたりの火葬場数をみると、東京、神奈川、埼玉、愛知、千葉など都市部が少ない。最少の東京と最多の和歌山の差は25倍超。多死社会を迎え、都市部の住人は現世の通勤ラッシュだけでなく、来世に向かうときも“火葬場ラッシュ”に巻き込まれる。

 横浜市によると、市内4カ所の市営斎場の火葬件数は、12年度から4年間で約2500件増えた。このため、縁起の悪さから葬儀や火葬を敬遠する人も多い「友引」にも稼働する市営斎場の数を、冬場は2施設から3施設に増やした。

 横浜市は今年に入り、鶴見区内に新たな火葬場を建てる計画を発表。神奈川県相模原市も市営火葬場新設に向け、候補地を選んでいる。市の担当者は「予備炉を使って受け入れ枠を拡大するなど既存施設で対応してきたが限界だ」と話す。

 日本では、亡くなった人の99%以上が火葬場で荼毘に付される。その歴史をひもとくと、8世紀に当時の天皇や高位の僧侶が亡くなった際の火葬の記録が残る。その後、貴族や武士の間にも広がったが、近世までは土葬が主流だったようだ。

 弔い方の地域差の古い統計として、大正2年の内務省「衛生局年報」がある。当時の火葬率は、全国平均で約30%。最も高いのは富山で火葬が1万7191人、土葬が62人で、火葬率がほぼ100%だった。次いで、石川98%、新潟76%が高い。大阪は75%、東京は51%だった。

 一般社団法人・火葬研(東京都)の武田至代表理事は「江戸時代、江戸や大坂では、寺院などがすでに専門業者として火葬を手がけていた。北陸などでは集落ごとに野焼き場を共同管理し、火葬作業も地域の人が相互扶助で担い、野焼き場が地域をつなぐ場所でもあった」と解説する。

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