この「なんかかんじ悪い」ってのはかなり重要で、例えばいつも口癖で語尾が「ですよね~」のヤツは、私のなかでは十分クビに値すると思います。

 舌打ちが多いヤツも勘弁です。一緒に居たくない。基本表情が半笑いのヤツもそれが直らなきゃクビにしたい。一番弟子は小言言われてるときに、照れ隠しなのか笑みを浮かべる癖があったので口酸っぱく言ったら直りました。惜しいな、直らなきゃクビにできたのに……。気に障る「なんかかんじ悪い」は意外と直るのですが、一番直りにくい「とてもかんじ悪い」のは『とりあえず、落語やってる』とか『落語に飽きちゃってる』とか『落語なんてこんなもんでいいだろ』ってスタンスのヤツ。

 入門したときは落語を好きだったはずなのに、「自分はこんなもんだ、頭打ちだ」と決めちゃって諦めちゃった人はよーくわかります。弟子たちにそんなふうになってもらいたくはないですから、どうするかというと口で言う前に『背中で見せる』しかない。

「師匠がこんなにやってんのに、俺たちはこんなもんか……なにくそ!」とか「師匠に認めてもらえるにはどうしたらいいか?」と弟子に思わせる師匠にならにゃいかんという……。あー、大変。弟子なぞとるんじゃなかった。師匠を「育てる」のは弟子なのかもね。

週刊朝日 2018年5月25日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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