ほかにも脱サラや定年退職しての繁殖業を始める人もいれば、「農家の人で、野菜を作るより猫を繁殖するほうが効率がいい、と始める人もいると聞く。安易に猫の繁殖を始める人が相当いる」(大手ペットショップチェーン経営者)といった状況だ。前出の筒井氏はこう憂える。

「犬と猫は全く別の動物です。たとえば、犬では感染症を防ぐのに有効なワクチネーションプログラムが確立しているが、猫ではワクチンで十分に抑えきれずに広がってしまう疾患がある。求められる飼育環境も、犬と猫とでは全く異なる。猫を飼育する際のさまざまなリスクを、犬のブリーダーがどれだけ理解できているのか心配です」

 猫の繁殖に参入したものの数年で撤退に追い込まれる業者も少なくない。関東地方で20年あまり犬の繁殖業を続けてきた女性は数年前、ブームに乗って猫の繁殖も始めてみた。だがしばらくすると感染症が蔓延した。「犬と同じようにいくのかと思ったら全然違った。感染症が一気に広まって、怖くなってやめました」と女性は振り返る。

 業者が廃業しても多くの場合、猫たちは繁殖から解放されない。廃業は第1種動物取扱業の登録が抹消されることを意味する。つまり、行政の目が届かなくなる。結果、繁殖に使われていた「台雌」と「種雄」の多くは、同業者に横流しされていく。こうした猫たちは、行政に把握されないまま闇へと消える。

 生産、販売ともに好調という事実は、ペットショップで猫を購入するという消費行動が普及してきたことを意味する。ブームは、消費者に衝動買いを促すという側面も持つ。衝動買いの結果が安易な飼育放棄に結びつきやすいことは、犬で証明されてきた。

 実際、純血種の野良猫が増えてきたという証言がある。

「アメリカンショートヘアやロシアンブルーなどと混血した野良猫はもはや珍しくありません」

 2月5日、超党派の国会議員で作る「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」の会合の場で、埼玉県内を中心に野良猫の保護活動を行っている保護猫カフェ「ねこかつ」の梅田達也代表はそう指摘した。

 昨年9月に埼玉県行田市内の公園で約20匹の野良猫を保護してみると、そのほとんどがスコティッシュフォールドやノルウェージャンフォレストキャットなどの純血種だった──というようなことも起きているという。

 このまま猫ブームが続けば、猫たちの過酷な状況は拡大再生産されていく。もちろんブームにはいつか終わりがくる。ただペットのブームは、終わった後にも悲劇が起こる。大手ペットショップチェーンの経営者はこう話す。

「高く売れるからとこの数年、各ブリーダーとも子猫の繁殖数を大幅に増やしている。そのため、繁殖用の猫をかなりの数、抱えてしまっている。ブームに陰りが見えて子猫の販売価格が下がり始めたら、増やしすぎた繁殖用の猫たちがどうなってしまうのか、行く末が懸念される」

(朝日新聞文化くらし報道部・太田匡彦)

週刊朝日 2018年3月16日号