「はー!? 誰が払うがぁー! ぼげーぇっっ!! そんな金あるわけねーだろーっ!!!」

 ゴチンッ!! 瞬間、目から火花。酔っ払いのマッハパンチが私の顔面をとらえました。「てめー!! 先輩に向かって何だ、その口のききかたはーっ!!」

「割り勘を要求する先輩は先輩にあらずーっ!!」と私。

 また、ゴチンッ!!

(礼節のない私)と(金のない先輩)はくんずほぐれつしながら、馬乗りになったりなられたり。しばらく殴り合いをしていたようですが「警察呼ぶよ!!」の店員さんの一喝で、3人でなんとか代金をかき集め、店を追い出されたようです(同行者談。つうか止めろよ)。

 翌日、寄席の楽屋で2人。「……おはよう……ございます」「おう……お疲れ様……」。痣と生傷の顔を見て、大御所の師匠が「いいねぇ~(笑)。若いねぇ~(笑)。並べ並べ!」と写真に収めてくれました。その日の夜は先輩にちゃんとご馳走になり、私も後輩としてペコペコヨイショ。こんな酷いエピソードのあとに、とりあえず取って付けたような言葉で〆ますが、暴力はダメ、絶対。

週刊朝日  2017年12月22日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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