ここまでは力士同士の問題だが、さらに事態を混乱させたのは、暴行の事実を知ってからの貴乃花親方の不可解な行動である。まずは「2通の診断書」問題だ。

 貴乃花親方が相撲協会に11月13日に提出した診断書には「頭蓋底骨折、髄液漏の疑い(略)全治2週間程度」との記述があり、貴乃花親方が12日の初日から貴ノ岩を休場させていたことから、一時は貴ノ岩の重傷が心配された。

 だが、17日には診断書を書いた病院が相撲協会の聴取に「頭蓋底骨折などの疑いで受診したが、診察の結果、骨折や髄液漏などはなかった」と説明。さらに貴ノ岩は九州場所前の9日の時点で「相撲を取ることに支障がない」と判断されたという。

 一方で貴乃花親方は鳥取県警には、10月28日に受診した広島市内の病院で作成された「前頭部のけがで全治10日」という症状の軽いほうの診断書を出していた。

 相撲協会とのやり取りも不自然だ。貴乃花親方は10月29日に鳥取県警に被害届を提出したが、相撲協会には一切、報告しなかった。関係者によると、11月2日に県警からの連絡で事件を知った協会が、翌日、貴乃花親方に事情を聴いた際はトボけたという。

 スポーツ評論家の玉木正之氏がこう疑問を呈する。

「貴乃花親方に『相撲協会に報告するとウヤムヤにされる』と助言した人が周囲にいたとも聞きますが、これだけの大事件を相撲協会がウヤムヤにできるはずもなく、不自然です」

 鳥取県警は日馬富士、貴ノ岩ら関係者の任意の事情聴取に乗り出し、暴行の経緯を解明し、傷害容疑での立件の可否を検討している。(本誌取材班)

週刊朝日2017年12月1日号より抜粋、加筆