帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
中国と日本では薬の量が違う(※写真はイメージ)中国と日本では薬の量が違う(※写真はイメージ)

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。

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【貝原益軒養生訓】(巻第七の11)
中夏(ちゅうか)の人、煎湯の水を用る事少く、
薬一服は大なれば、煎汁甚濃(せんじゅうはなはだこく)して、薬力つよく、
病を治する事早しと云(いう)。然るに日本の薬、如(レ点)此小服なるのは何ぞや。

 養生訓で益軒は中国と日本では薬の量が違うことについて触れ、それは何故なのかを考察しています。

「(日本では)一般に医者の薬は1回が6、7分から1匁(もんめ・3.75グラム)である。1匁より多いのは珍しい。ところが中国の薬は医書によると1回が3匁から10匁になっている」(巻第7の11)というのです。

 これは実は、現在でも同様で私自身が実感しています。中国の病院で、診療のあとに薬局から出てくる患者さんを見ると、漢方薬の大包みを抱えている人が多いのです。

 また、中国で中医学の診療を受け、その処方せんを私の病院に持って来る人がいます。それを見るたびに彼我の差を感じます。生薬の種類が多いのはもちろんですが、1回分の量が違うのです。日本で日常的に処方している量の2倍から3倍。まあ、益軒の時代には2、3倍どころではなかったようですが。

 益軒は中国と較べて、日本ではなぜ薬の量が少ないかについて、三つの理由をあげています。

 中国の人は日本人よりも生まれつき体質が健やかで胃腸が強いために、飲食の量が多い。肉類も多く食べる。それに対して日本人は生まれつき体質が薄弱で、胃腸が弱くて食が少ない。だから薬の量が少ない。

 
 日本では生薬の多くを輸入に依存している。海外のものは高額になるので、薬剤を少量で調合するしかない。特に貧しい医者は薬の種類も惜しんで多くを使わない。それが古来の習慣になっている。

 中医学に関して日本の医師は中国に及ばないという自信のなさから、薬が病気に合わないことを心配する。万が一、病気に合わない薬を処方したとしても、少量であれば害が少ない。それでうまくいけば日を重ねて使えばいいので、少量の方がいい。

 三つとも益軒の時代であれば、なるほどと思える理由です。しかし、国際化が進んだ今日も漢方薬の量が大きく違うのは、何故でしょうか。

 私は、日本人と中国人の体質の違いだろうと思っています。といっても、西洋医学に慣れた一般の人にとって、日本人と中国人で薬の量が違うのは、納得できないかもしれません。

 そこが人工的に作られた西洋医学の薬と、生薬で構成される漢方薬の違いなのです。人工的な薬はその効果を力価という値で算出できます。体格が同じ中国人と日本人では同じ力価の薬を使います。

 ところが漢方薬には力価という考え方がありません。生薬を組み合わせて、その人の体質にあった処方をします。胃腸が強くてたくさん食事が取れる人は、たくさん漢方薬を飲めばいいし、胃腸が弱くて少食の人は少なくていい。この分量を飲めばこれだけの効果がある、というようなストレートな関係ではないのです。

 漢方薬を飲むことは、薬を飲むというより食事で栄養を摂(と)って体を丈夫にするのと、イメージが近いかもしれません。

週刊朝日 2017年11月10日号

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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