夫:その後、るみと二人で、初めてうちの実家に行った時はびっくりした。

妻:「ただいま事件」やな。

夫:るみは、かばんを振り回しながら「ただいま~」って、初対面やのに玄関で出迎えた父ちゃんより先に家に入っていった。

妻:ジョーちゃんの父ちゃん(義父)の座椅子に勢いよく座って後ろにどーん。ひっくり返ってパンツ丸見えに。

夫:父ちゃんの第一声が「派手な入場やの」って。

妻:ジョーちゃんから実家の話をずっと聞いてたから、懐かしいような、初めてなのに違和感がなくて。

夫:水かコーヒーしかなかったけど、るみが「コーラ」と言うたら父ちゃんはバイクでブーンと買いに行った。うれしかったんやと思う。次から帰ると冷蔵庫の中がコーラでいっぱいになってたからな。やっぱり(義理の)娘って違うんやなって。「るみはおるだけでええんや、何もせんでええ」って。

妻:だから、その後も何もしなかった。

――世界初戴冠。リング上で夫は「父ちゃん、やったで!」とテレビの向こうに呼びかけた。大きなおなかを抱えた妻は、映画「ロッキー」の妻エイドリアンのように自分の名前が呼ばれるのかと思っていたが……。

妻:でも、うれしかった。自分の名前を呼ばれるより泣けた。「父ちゃん」と言った。だから好きになったんやろうなって。

夫:5歳から父ちゃんと世界チャンピオンを目標にしてたからな。

妻:出産の時には、病院で笑われたね。

夫:父ちゃんしかおらんかったから、陣痛も、腹に人が入っていることも想像がつかん。(立ち会って)子どもが頭から出てきた時は、内臓が出たかとマジで思った。よう見たら赤ちゃん。そしたら次に胎盤が出てきて、え、双子?って。

妻:いちいち聞くから、うるさくてお産に集中できへん。次の日に先生と看護師さんが病室に来た時には、疲れて私のベッドで寝てた。「お父さんが出産したみたいやね」って笑われて。でも、すぐ新生児室のガラスの外でシャドー(ボクシング)してた。めちゃやる気なんやなって思った。

夫:覚えてないわ。

妻:1カ月健診では「お母さん百点満点ですよ」って褒められたけど、「いやいや、お父さんなんです」って思ってた。試合が終わって帰ってくると、何も言わんでもおしめも替えるし風呂にも入れる。(試合で負傷しても、子どもの世話はするので)子どもに血がついてたことも。

夫:自分の子やから、やるのは当たり前。ボクシングとは別や。

「“浪速のジョー”辰吉丈一郎夫妻、直してほしいところは『全部』と意見が一致!」へつづく

週刊朝日 2017年10月27日号 より抜粋