春風亭一之輔が「ビデオボックス」のキャッチコピーを絶賛する理由
連載「ああ、それ私よく知ってます。」
落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「ライバル」。
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繁華街でよく見かける個室ビデオボックス。
某店のキャッチフレーズは『ホテルがライバル!!』。のぼり旗をはためかせて、声高らかにライバル宣言しています。
果たしてこの熱い想いはこんな路地裏から世間に、そしてホテルに届くのでしょうか?
世の中には無数のホテルがありますから、できれば具体的なホテルの名前を挙げてくれたほうが、はっきり意気込みが伝わっていいんですけど。高級ホテルをライバルとするのか、安いビジネスホテルをライバルとするのか。これ大事なとこですよ。「ホテル」と大枠なところに意志が感じられないような……。「とりあえず言ってみた感」?『帝国』『ニューオータニ』『ヒルトン』『ペニンシュラ』……遠慮しないでドーンとぶつかっていけばいいんですよ。謳うのはタダ。ライバルは高めに設定だ。頑張れ、ビデオボックス!
そんなこと言いながら、自分を振り返ってみれば「ライバルは誰ですか?」なんて質問はちょっと、いやかなり苦手です。
取材で聞かれた時は、いつも「……うーん(考えるふり)……ライバルって、自分のなかで設定しちゃうと、その人を越えられない気がするんですよ……あえて、私は作らないようにしてます(微笑)」とか「(考えるふり)その日その日でお客さんの反応って違いますからね。同業者がライバルっていうよりも……目の前のお客さんが『好敵手』ってことですよ……(遠い目)」……みたいに気取って答えがち。「昨日入門した前座から大御所の師匠まで、全員がライバル」……とかもっともらしいことも言ったりします。恥ずかしい。
聞き手が要領を得ない困った顔をしてると「落語って結局、お客さんの好きか嫌いかですから」とお茶を濁す私。
『この人、俺のライバル!』って名指しで言うのは度胸がいります。名前を挙げたところで、耳にしたご当人にどう思われるか考えちゃうんだなぁ。
